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「魚が付く林」不思議な童話は島の歴史

MV 「魚が付く林」不思議な童話は島の歴史

130年も昔に、姫島全体で持続可能な地域づくりに取り組もうという意識が広がっていたのはすごいこと

周防灘に浮かぶ姫島は、海の幸に恵まれた漁業の島。
6年前にここへ赴任した地質学者の堀内悠さんは、島の地質的な面白さに加えて、魚付林(うおつきりん) など漁業資源を守る取り組みが昔から行われてきたことに感銘を受けたという。
堀内さんが紹介してくれた椋鳩十(むくはとじゅう) の童話「ふしぎな石と魚の島」に、姫島の魚付林の話が描かれている。

魚付林とは、魚を集めるため海岸や近くの山に育成した林。
木々が海に木陰を作って魚の産卵を助け、土の栄養分を海に送って魚を育てる。
明治時代、姫島の初代郵便局長を務めた中條石太郎(ちゅうじょういしたろう) は、不漁続きだった島で魚付林の大切さを説き、はげ山になった矢筈岳(やはずだけ)に木を植える活動をした。
私財で番人を雇って木を切る者を取り締まり、熱心に村民に伝え続けた結果、山に木々が茂り、島の周りに魚が集まって豊漁続きになった、というお話。
「この話から学べるのは、今の生活のことだけを考えるのではなく、未来に資源を残すことの大切さ。みんなで協力すれば必ず実現できるということです」と堀内さん。
古くから姫島では「うおつけりん」と呼ばれ、小学校の社会科でも取り上げられているそうだ。

漁師が自分たちで魚や海藻をとる時期、期間、魚種や漁法などを細かく決めた「期節定め」を作り、乱獲を防ぎながら漁を行うようになったのも、同じく明治時代。それが現在に引き継がれている。
「130年も昔に、姫島全体で持続可能な地域づくりに取り組もうという意識が広がっていたのはすごいこと」と堀内さん。

童話作家が見つけた小さな島の物語は、今も日本全国の子どもたちに読まれている。