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ここにあったサステナブルな未来

MV ここにあったサステナブルな未来

「名前は遺産だけど、実は遺産ではないんです」

“世界農業遺産の先生”として知られる林浩昭さんから、開口一番、そんな言葉が飛び出した。
「遺産は過去のものですが、世界農業遺産は違う。過去から受け継いだ農林水産業の仕組みを今も続け、未来につなごうとしていることが評価されるのです」。

では国東半島宇佐地域のどのような点が、世界農業遺産と認められたのか。
林さんは「クヌギ林としいたけ栽培」を第一に挙げる。

「ここでは昔から原木しいたけ栽培が行われ、良質なしいたけの原木となるクヌギを植えてきました。
クヌギは伐採しても切株から芽が出て、15年ほどでまた切って使える。
持続的に森を利用できる仕組みをしいたけと組み合わせたのがすごいところです」。そう話す林さん自身も、国東半島で、両親から受け継いだしいたけや米の栽培を続けている。

未来へつなぐ世界農業遺産

水田農業においては、この地域は雨が少なく平野が狭いので小さなため池を約1200も築き、連携させて利用する仕組みを作り上げた。これを今も地域の人が維持管理しているのも、評価された点だ。さらに「連携式ため池の未来版」というべき大規模灌漑システムの導入が、宇佐地域のブドウ園などで始まっているとのこと。
まさに、未来へつなぐ世界農業遺産である。

クヌギの落葉がふかふかの土を作り、しみ込んだ雨が豊富な養分を含む地下水となってため池を満たして、農業を支える。
さらに川から海へ注ぎ、豊かな海の幸を育むという、大きな循環の輪。自然と共生する中で生物多様性も維持されてきた。

意図したわけではないのに、クヌギ林とため池によってすべてがつながっている。この農林水産循環のシステムが、世界に認められた。世界が持続可能な開発目標(SDGs) に掲げていることを、私たちはもう何百年もやっているんです」。

地球環境を巡る最先端の取り組みは、すでに「ため池」から始まっていたということ。サステナブルな未来はここにある。